大阪地方裁判所 平成10年(モ)879号 決定 1999年7月23日
主文
一 相手方両名は、平成11年8月31日までに、次の各文書を当裁判所に提出せよ。
1 相手方両名が平成4年4月1日から平成8年3月31日までに行った日本住宅金融株式会社に対する会計監査及び中間監査に際して作成した財務諸表の監査証明に関する省令6条に基づく監査調書一式に含まれる別紙文書目録<略>の文書のうち別紙債務者目録<略>の者に係る部分
2 相手方両名が平成4年4月1日から平成8年3月31日までに行った日本住宅金融株式会社に対する会計監査及び中間監査に際して作成した財務諸表の監査証明に関する省令6条に基づく監査調書一式に含まれる別紙文書目録<略>の文書うち、別紙債務者目録<略>の者以外の者に係る部分であって、当該債務者の氏名、会社名、住所、職業、電話番号及びファックス番号の記載を除く部分
3 相手方両名が平成4年4月1日から平成8年3月31日までに行った日本住宅金融株式会社に対する会計監査及び中間監査に際して作成した財務諸表の監査証明に関する省令6条に基づく監査調書一式に含まれる文書のうち別紙文書目録<略>の文書以外のすべての文書
二 申立人らのその余の申立てをいずれも却下する。
理由
第一 申立ての趣旨及び理由並びにこれに対する相手方両名及びその他の被告らの意見
一 申立ての趣旨及び理由
別紙文書提出命令申立書、反論書、意見書及び文書提出命令申立理由補充書記載のとおりである。
二 相手方両名及びその他の被告らの意見
別紙平成10年5月14日付け「文書提出命令に対する意見」と題する書面(7丁のもの)、同日付け「文書提出命令に対する意見」と題する書面(3丁のもの)、平成11年1月18日付け「文書提出命令に対する意見(二)」と題する書面及び同年3月16日付け「文書提出命令に対する意見(三)」と題する書面記載のとおりである。
第二 当裁判所の判断
一 事案の概要
本件本案事件は、日本住宅金融株式会社(以下「日住金」という。)の株式を購入した第1、第2事件原告らが、日住金が第21期(平成3年4月1日より平成4年3月31日まで)から第24期(平成6年4月1日より平成7年3月31日まで)までの各事業年度の有価証券報告書(証券取引法24条1項に基づく報告書)に、融資残債権のうちの取立不能見込額、すなわち貸倒引当金を過少に計上して虚偽の記載をしたことにより、本来低価値である株式を右虚偽の記載を前提として形成された価格で購入させられ、その後、日住金の経営が破綻したことによって購入した株式が無価値になったとして、第1、第2事件被告朝日監査法人及び同三興監査法人(以下、合わせて「被告監査法人」という。)に対しては、右各有価証券報告書の財務書類につき適正とする旨の監査証明をした監査法人として、第1、第2事件被告岡島和夫ほか7名に対しては、右各有価証券報告書を提出したその当時における役員として、それぞれ証券取引法24条の4、22条、21条及び24条の5に基づき、各株式につき真実の記載がされたとすれば形成されたであろう金額と購入金額の差額の損害の賠償を求めたものであり、本件申立ては、右虚偽記載の事実の立証として平成4年から平成8年3月末までの各3月末及び9月末における延滞債権の額、担保割れ率、回収不能見込額を明らかにする必要があり(以下「本件立証事実」という。)、その立証のため、民訴法220条4号に該当するとして、財務諸表等の監査証明に関する省令に基づき、大蔵大臣が相手方らから提出を受けて所持する監査概要書及び中間監査概要書並びに相手方らが作成して所持する監査調書の提出を申し立てたものである。
二 証拠としての必要性
本件監査概要書及び中間監査概要書は、監査法人が監査証明のために実施した監査により作成する監査報告書を構成し、監査の概要を記載して大蔵大臣に報告したものであり、本件監査調書は、監査法人が、問題となっている有価証券報告書を作成するに際して基礎資料としたものであって、監査証明を行うために実施した監査に係る記録又は資料を事業年度毎に整備して事務所に保管し備え置いているものであり、いずれも本件立証事実を立証する証拠として直接的かつ最重要であって、その必要性は高いということができる。
相手方両名及びその他の被告らは、監査調書以外にも、日住金が所持し、後に住宅金融債権管理機構に引き渡された資料が存在するから、まずもってそれらの提出を求めるべきであると主張するが、日住金が所持し、後に住宅金融債権管理機構に引き渡されたとされる資料が果たしてどのような内容のものであるかについてはいまだ不明であるし、仮に、右資料が存在していたとしても、本件文書の必要性が認められることに変わりはない。
三 監査概要書及び中間監査概要書について
本件監査概要書及び中間監査概要書は、財務諸表等の監査証明に関する省令5条に基づいて大蔵大臣に提出、保管されているものであり、民訴法220条4号所定の「公務員又は公務員であった者がその職務に関し保管し、又は所持する文書」に当たるから、文書提出義務は認められない。
四 監査調書について
1 文書の特定性
文書の特定性が要求される趣旨は、所持者において提出の対象となる文書を他の文書から区別させることにあるところ、本件監査調書は、相手方らが、監査に係る記録又は資料を事業年度毎に整備して備え置いたものであり、右記録又は資料が膨大ではあっても、相手方らにおいて他の文書から区別し得るものと考えられ、現に、相手方らは、インカメラ手続において、右監査調書を構成する文書類を当裁判所に提出しており、したがって、他の文書から特定し得る程度に特定しているといえるから、特定性の要件を充たしており、要証事実との関連性も肯認できる。
2 民訴法220条4号該当性
当裁判所が、インカメラ手続により本件監査調書を精査した結果、本件監査調書一式のうち、別紙文書目録<略>の文書(以下「本件債務文書」という。)は、日住金の債務者の氏名、負債額、返済状況、担保の内容など日住金及びその債務者の秘密にわたる事項が記載されているから、相手方らが職務上知り得た事実で黙秘すべきものが記載された文書であるということができるが、それ以外の文書は、右黙秘すべき事項が記載された文書とはいえない。
そして、日住金は既に経営が破綻し、その地位を承継した住宅金融債権管理機構が本件監査調書の提出について同意しているから、本件債務文書に記載された右事項を日住金の秘密として保護する必要性は少ない。
また、債務者のうち、別紙債務者目録<略>の156名については、大蔵省によって平成3年ないし4年及び平成7年8月に日住金への立入調査がされ、日住金の貸付けを受け、その返済が一部滞って不良債権化していることなどが既に明らかになっており、その調査結果も本件訴訟において証拠(甲第3号証の1及び2、第32号証)として提出されている上、右156名の中には既に倒産状態に陥っているものの多々存在するのであって、右156名に係る部分は、その秘密を保持する要請がさほど強くないといえるところ、本件債務文書の証拠としての必要性は極めて高い。
さらに、債務者のうち、右156名以外の債務者に係る部分は、秘密として保護されるべきであるが、前記のとおり、その証拠としての必要性が極めて高いというべきところ、債務者の氏名、会社名、住所、職業、電話番号及びファックス番号を開示しない態様で、右部分を開示することにより、秘密保護の要請と証拠として使用することの必要とを調和的に充足することができる。
次に、本件債務文書は、監査法人である相手方らの職業上の秘密に関する事項が記載された文書といえるが、日住金したがって住宅金融債権管理機構との関係、前記156名の債務者との関係では、前記したところにより、職業上の秘密としても保護する必要性がないか、あったとしても極めて弱く、右156名以外の債務者との関係では、前記態様で開示する限り、職業上の秘密の保護の観点からも開示が妥当と考えられる。
したがって、本件監査調書は、前記した限りで、民訴法220条4号ロ、同法197条1項2号、同項3号の文書には当たらないというべきである。
五 結語
よって、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 若林諒 裁判官 河合裕行 上村考由)
(別紙)文書目録<略>
債務者目録<略>